短歌とAIと言語処理を同時に学べる不思議な書。現代の生成AIの仕組みを、ある目的(今回は自然で面白い短歌の生成)に沿って調整してく様を丁寧に書くことによって解説していく書でもある。Procreateでお絵描きするチュートリアルのような形で、AIの短歌出力を調整していくチュートリアルになっていて、それによってAIのクセが実地的に分かっていく感覚があって面白い書だった。
短歌出力をパラメータで調整するということ
短歌らしさを出すために調整をしていく作業は、料理とか難し目の自動機械のパラメータ設定に似た、人間による適切なフィードバックが必要な作業に似ている、と感じた。PID制御のパラメータ調整にも似ている。(ひとつの値の調整で済むならPID制御で世の中のほとんどのニーズは満たされるので『ゼロからはじめるPID制御』を読みましょう。名著中の名著です)出力がクリエイティブなものもあれば、むしろ一定にするために求められるものもあり、不思議な一致である。
ストーリーの普遍的な構造
飛躍とそうでないバランスを生成される文字列単位で調整していく感じは、実際に生体脳で文章を書く際の作業と変わらないと思う。そこをパラメータで数値で示されると、ストーリー作りにおける起承転結のようなグラフを思い起こした。仕事で紹介してもらった『ストーリーマッピングをはじめよう』で示された図を紹介しておこう。
これは古来より知られていたわけだけど、佐村河内氏の作曲メモでもあるように、時間軸の存在する表現(文章表現もまた読むのに時間が存在するのでこの範疇である)において、このようなカーブは普遍的なものなのだろう。佐村河内氏の「指示書」を基に制作 時間と楽器は記述なく…― スポニチ Sponichi Annex 芸能 より。
本書で実際に生成AIをパートごとに使って作った短歌を、温度パラメータでグラフ化したものがこちら。
温度パラメータは生成のランダムさ、つまり意外性。なので最初の「見えてくる」という人間の入力を温度0と考えてもよいだろう。そうすると、クライマックスに向けて一旦下がるストーリーの典型的なグラフになっていると思う。時代はとうとうストーリーカーブの擬似的だったはずの数値をそのまま機械が解釈して出力する段階まで来てしまった、というわけだ。
おわりに
新書なので、現時点でのある知識を伝えるためのものであり、生成過程を丁寧に追っていくところとかも技術の説明のためにされているはずなのだが、どことなく料理研究家のエッセイみたいなところがあって、そこが実は一番面白いのかもしれない