全投影空間のコンテンツ設計Tips

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先日こちらの記事で紹介したRICOH PRISM。部屋の壁4面と床すべてが投影による画面という空間でのコンテンツ設計は、通常の画面設計とは大きく異なっていました。ここでは覚書としてコツをまとめておきます。

VRアプリでのUI設計にも応用可能なことだと思います。

人の横の視野が特に重要

多くのUIデザインで考えなくて良いことに、横の視野の広さがあります。現行のデバイスの多くはユーザーがその画面全体を全て視野に収めている前提で作られているからです。投影空間では視野は大変重要です。横に実質無限の広さがあるので、人が楽に捉えられることが出来る範囲に収める必要があります。これは開発後半でも出てくる問題で、画面いっぱいに文字を出したら近づいてる時に読めない、ということが起きがちです。

場所を動かすアニメーションは視野と合わせて設計する

人が自然に視野を動かす以上のスピードのアニメーションは、認知が不可能になります。壁の模様が変化している、みたいに捉えられてしまいます。壁全面ということで、壁をぐるぐる回るようなアニメーションにしたところ、視野を大きく超えて身体の向きを変えて追っていく必要が出てしまい、狙った効果が得られないことがしばしば起きました。複数人で体験すると、他者への視線を配慮せねばならず、より注目されなくなります。

一方で視野や移動の誘導も含めて設計すると、面白い体験になり得るので、ここは全投影空間設計の最も楽しい点でもあります。

周辺から中央にアイテム表示を移動させていき、最後にみなの視線が中央に集まるようなアニメーション設計を考えていたと時のホワイトボード

床は見ていない

壁側にも投影があると、床はほとんど注目されません。視線は下には普通いきません。床を活用するならむしろ壁側の表現を抑制する必要があります。

離れた場所で同時に意味のある動きを作らない

4面あるので全ての面で同じ説明動画を流したら、ユーザーは他人に邪魔されずに近くの画面を見れて便利だろう、そう考えて実装したら破綻しました。視野の端に動く別動画が気になって何を見れば良いのか分からなくなるのです。解決策はシンプルで1面だけにしましょう。視野の端は実は進化の過程で中央よりも動きに反応しやすくなっているので注意が必要なのです。ゆっくりした動きなら大丈夫なのでスクリーンセイバー的な表現は問題ありません。

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この動画はPRISMアプリのひとつ、BRAIN WALLの開発中のもの。まさに同じ動きのものを4面に作ってしまった失敗事例です。

音が重要

映像に囲まれているからこそ音が重要になってきます。指示や操作の重さもしくはかるさをユーザーに伝えるには必須なのです。UIパーツを凝るよりもSEにお金をかけた方が体験としてのリッチさが簡単に上がるでしょう。音がぴったりハマると繰り返したくなる体験になります。

ポインティングデバイスを使うかどうか

直接のタッチとポインティングデバイスの使い分けは、最近のデバイスの悩みですが、全投影空間にもまたあります。ただ、ここは普通のデバイスでの使い分けと同じ感じになるので、ノウハウを流用できます。つまり、より細かいことをさせるならポインティングデバイス。大雑把にやるならタッチ。どちらもあることは、アプリごとのチュートリアル設計や体験開始時の設計をしっかりすれば問題ありません。

おわりに

全投影空間の設計は、現在使われている画面の中のUIとは大きく異なり、導線などを踏まえた建築的発想も必要とされ、未知なものと格闘させられる体験でした。ユーザーはどこに立つのか?はたまた座ってしまうのか?歩き回ってくれるのか?想定通りに動いてくれる?くれない?UI設計とは思えない問いが大量に出てきて、疲れると同時に楽しい状況でした。AppleがVision Proを発表し、ARが盛り上がってくる予感もあり、今後これらの経験が活かせる機会は増えていきそうで楽しみです。